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ハスバ歯車の正面モジュールと正面圧力角の計算

ハスバ歯車の正面モジュールと正面圧力角の計算式について解説します。

はじめに

 歯直角モジュール:\(m_n\) と 歯直角圧力角:\(α_n\) が同じであれば、ネジレ角が異なるハスバ歯車を同じホブカッターを用いて加工することが出来ます。ハスバ歯車を考える時、軸と直角に切断した歯車断面形状(歯車の端面形状)についてのモジュールと圧力角を考えると平歯車と同様に取り扱うことが出来ます。 これらの軸直角のモジュールと圧力角は、正面(軸直角)モジュール:\(m_t\) と正面(軸直角)圧力角:\(α_t\) で表され、\(m_t\) と \(α_t\) は \(m_n\) と \(α_n\) が同じでも、ピッチ円上ネジレ角:\(β\) が異なると値は変わり、計算式は下記となります。

\begin{eqnarray}      m_t &=& \frac{m_n}{\cosβ} \\         α_t &=& \tan^{-1} \left( {\frac{⁡\tan α_n}{\cos⁡β}} \right)  \end{eqnarray}

この \(m_t\) と \(α_t\) の計算式は非常に重要なのですが、特に \(α_t\) の計算式は三次元的に考える必要があり、少し理解しづらいので、見やすい図を用いてわかりやすく解説したいと思います。

考え方

 ハスバ歯車の正面モジュールと圧力角の計算式を導くために、ハスバ ラックの形状を用いて考えます。
ラックは歯数∞の円筒歯車として考えることができ、そのインボリュートの歯形形状は直線となるため、非常に扱いやすくなります。そして、ラックはホブカッターとも考えることができ、この直線の歯形で一般のインボリュート曲線の歯面を持つ歯車を加工する(かみ合う)ことになります。
 なぜ、ラックで考えることが出来るのか?という疑問を持たれる方も多いと思います。この疑問については別途詳しく解説するとして、分かりづらい方は一旦この疑問は後回しにして、ハスバ ラックの軸直角の正面モジュールと正面圧力角の計算式の導き方を学んで頂くのが良いでしょう。歯車に携わっていると後からきっと話が繋がる時が来ると思います。

正面(軸直角)モジュール:\(m_t\) の計算

 図1はハスバ ラックを描いており、下側がラックの投影図、上側がラックをピッチ平面で切断し、その切断された断面を歯先方向から見た図です。
 ラックで考える場合は "ピッチ平面” で考える必要は無いのですが、基準ピッチ:\(p\) と 基準円筒ネジレ角:\(β\) を扱っていることを意識するために、基準ピッチ平面の断面を用いています。(ラックは歯先から歯元までピッチとネジレ角は同じですが、有限の歯数の円筒歯車では円筒の径が変わるとピッチとネジレ角は変化します。これも、分かりにくい方は、一旦後回しで考えるのが良いでしょう。)

基準ラックと歯直・軸直モジュール
図1 : 基準ラックと歯直・軸直モジュール

 図1において、ピッチ \(p\)(歯と歯の間隔)は以下のように定義されます。
\(p_n=π \cdot m_n\) (歯直角ピッチ)
\(p_t=π \cdot m_t\)  (軸直角ピッチ)
 注意が必要なのは、これらは、モジュール \(m_n\) と \(m_t\) の定義となることです。
 (このように考えることで、基準ピッチ円径は \(d=z \cdot m_t\) となります。)

図1の△ABC部の拡大図
図2 : 図1の△ABC部の拡大図

 図2は、図1の△ABCを取り出して平面に描いた図となります。
 これにより、\( \overline{AB}(p_t ) \cdot \cos⁡β = \overline{AC}(p_n ) \) となり、これを整理して、正面モジュールの計算式が得られます。

  \[ m_t = \frac{m_n}{\cosβ} \]

正面(軸直角)圧力角:\(α_t\) の計算

 図3も ハスバ ラックを描いており、正面(軸直角)圧力角:\(α_t\) を求めるために、今度はピッチ平面より歯先側の形状を考えていきます。

歯直角圧力角と正面(軸直角)圧力角
図3 : ハスバ ラックの歯直角圧力角と軸直(正面)圧力角

 青色の線で描かれた断面が歯直角方向の断面となり、線分 \(\overline{AC}\) と 線分\(\overline{BC}\) のなす角が
歯直角圧力角:\(α_n\)
 赤色の線で描かれた断面が軸直角方向の断面となり、線分\(\overline{AE}\) と 線分\(\overline{DE}\) のなす角が、求めたい
軸直角圧力角:\(α_t\)
 となります。

△ABD拡大図
図4 : 図3 の△ABD拡大図

図4は、図3のピッチ平面上にある△ABDの拡大図となり、これは直角三角形であり、図のように長さa ,b を定義すると以下の関係となります。

   \[b=\frac{a}{\cos⁡β} \tag{1}\]  

△ABC と △ADE 拡大図
図5 : 図3 の△ABC と △ADE 拡大図

 図5は歯直角平面にある△ABCと、軸直角平面にある△ADEを同一の平面に重ねたものになります。(点Aは、離れた位置で描いていますが、図3では同一の点です。)
 線分\(\overline{BC}\) と 線分\(\overline{DE}\) は同じ長さであるため \(H\) と定義すると、歯直角圧力角:\(α_n\) と 軸直角圧力角:\(α_t\) は、それぞれ以下の関係式となります
\[ \tan⁡ α_n = \frac{a}{H} よって H = \frac{a}{\tan α_n} \tag{2} \] 同様に \[ \tan α_t = \frac{b}{H} \tag{3} \] (3)式に、(1)式と(2)式を代入し、\(b\) と \(H\) そして \(a\) を消去すると \[ \tan⁡ α_t = \frac{a}{\cos ⁡β} \cdot \frac{\tan⁡ α_n}{a} = \frac{\tan⁡ α_n}{\cos⁡β} \]   \[ \therefore α_t = \tan^{-1} \left( {\frac{⁡\tan α_n}{\cos⁡β}} \right) \] 

この軸直角圧力角の計算式は、ハスバ歯車の計算には必須であり、ダイレクトギヤミーリング加工の計算にも、正面圧力角:\(α_t\) の計算式と考え方は非常に重要になります。